浜松の設計工務店アランです。みなさん、静岡県浜松市天竜区にある「春野町」というエリアについてご存知ですか?『竹の鞄 GENと春野町のお話』ではそんな春野町での家づくりこと、住まい手のこと、春野町という土地のお話をシリーズでお届けしたいと思います。
#4は最終回。今回はげんさんが「どんな意志を持ってこの家と暮らしを選んだのか」を、完成した建築写真をご覧いただくことでご紹介できればと思っています。
小屋IN古民家
げんさんの家は、築120年の古民家を改修しています。工房スペースは、古民家の中に小屋を新しく建てました。
日本の古い家は今の家のように気密性が高くありません。冬は寒さの厳しい春野の地で快適に暮らすには、家全体の断熱性能を上げることがベストです。しかし、この広い家の全面を断熱改修するとなるとコストもかかります。また、コスト面だけではなくせっかくの立派な梁などが隠れてしまうという意匠的な問題も。そこで、1日の大半を過ごす仕事部屋を小屋の形で増設し、その場所は快適性を上げるという方針をとることにしました。この三畳の仕事部屋は地震など万が一の際のシェルターにもなるのです。
二間続く見通しの良い部屋はなるべく手をつけず、広く使えるようにしました。展示会などのイベントができるようにと考えられています。
なるべく自然に朽ちる素材を。
「なるべく現状のものを直して使いたい。新しくする部分もなるべく自然に還るもの、地元材を使いたい」げんさんが家づくりに求めたことは、とてもシンプルなことでした。
コルソヤードの手すきの障子紙
手当された古い建具には、新しく岐阜県美濃の手漉き和紙を使いました。折れてしまったサンは、新しくするのではなくコルソヤードさんの手によって手当てされています。湿気を含むと、自然に紙がゆらぎ乾燥するとピッと伸びる。外の光を細かい紙の粒子が和らげてくれる。きっとその光は竹の鞄を美しく見せてくれるに違いありません。
新築した小屋(工房)には、い草と藁(わら)でつくられた畳を
畳はい草でできているのはみなさんご存知だと思います。ですが、中の芯の部分はどんな素材でできているか知っている方は少ないのではないでしょうか?今の畳はスタイロフォームと呼ばれるポリエチレン素材が中に入っているものが殆どです。しかし、げんさんの工房で使ったのは芯が藁でできている”本物の”畳。踏み込むとずしっと藁の沈みがある、心地よい畳です。
芯が藁でできた新しい畳は、水分を多く含んでいるためカビも発生しやすいと言われています。カビ対策のためには、表面をアルコールで消毒するのが一般的ですが、表面の乾燥といたみやすさの原因にもなってしまうためお手入れは一苦労。クレームにもつながりやすい畳はどんどん住宅の現場から消えつつあります。ですがげんさんのこんな一言で私たちもハッとしました。
「家が自然に還ろうとすることに反して、自分は使い続けていこうとしているから。カビが生えるとはそういうこと」
アランさんは「カビが生えたんだ!どうしてくれるんだ!」というクレームをいう相手ではなく、家のことでどうしようと悩んだときに、一緒に考えてくれる存在でいてほしい。と、げんさん。こうした想いのあるお客様に、ほんものの材料をしっかりご提案していきたい。と、私たちも改めて強く思うのです。
春野の地で採れた木を床材に
日本の家はその昔、近くで採れた木材を使って、村の人が寄り集まって建てるものでした。近くにある材料を使うということは、理にかなった自然なことなのです。げんさんの家の床材には、春野で伐採された杉と檜を使いました。床板を新しく貼った後、余った床板を天井に。手に入れた材料をなるべく無駄なく使う。こうしたことも、工務店であるわたしたちが、住まい手と一緒に話し合いながら作るからこそできるのだと思っています。
便利さを受け入れる。
げんさんの家の水回りは、とても快適。竹の鞄 GENの工房も兼ねているので、遠方からお客様もたくさんいらっしゃいます。そういった方々にも、気持ち良く使っていただけるように、水回りは快適です。
作り付けの洗面台はとてもシンプルな構造。
お風呂はハーフユニットバス。木の風合いが感じられます。緑のタイルも、個性的なアクセントになっています。
泡で便器内を洗浄するトイレ。見た目も使用感も水洗便所と相違ありません。
自然なことを良しとはするけれど、不便であることまでは求めない。無理のないことが、長く住み続ける家に求められることなのだと思います。
住まい手の意思が「持続可能な家」をつくる。
アランのブログでも書きましたが、建築業会は今「よりエコに、より持続可能に」という方向にすすみはじめています(ブログはこちら)。エコで持続可能な家を目指して様々な手法や技術が生まれていますが、本当に持続可能な家を作るには、住まい手の“意志”が不可欠だと思うのです。
そして今後げんさんは春野で育った竹で鞄を作ろうとしています。
この場所でひとつの手仕事が育ち、それを次の世代に伝え、この家も繋いでいきたい
と語るげんさん。わたしたちもげんさんとの家づくりを通じて、改めてものづくりの担い手として背筋が伸び、春野町の人々との交流を通じて「良い暮らし、良い家」とは何かを考えるきっかけをいただきました。こんな風に、げんさんはきっと周りに良い影響を与えていく人なんだろうなぁ。
げんさんの想いが、次に繋がっていきますように。そして、私たちアランもこの先ずっと春野町でできたご縁と、繋がっていけますように。
ブログシリーズ「竹の鞄・GENと春野のお話」完